隧道工事のメタンガス監視
炭坑勤務時代、メタンガス監視システムの信頼性向上に払った努力が、
類似する現場の安全に少しでも役立てばとの思いで記した。
なお本項の記述は、私の個人的な見方であり公的に認められたものではない。

例−3
@袋坑道天盤のボーリング孔からメタンガスが湧出した。
Aガスを攪拌希釈するために坑道へ工場用扇風機を設置した。
B坑道内のガス濃度が増した時は扇風機を運転して希釈する。

危険な
理由
@ガスを攪拌希釈しても停滞するガスの量は変わらない。
A坑道内のガスは排出されないので、湧出分が増加して爆発濃度となる危険がある。
Bこのような状態を車風(くるまかぜ)と呼んで、通気専門職は決して容認しない。

危険排除の策

◎袋坑道の外へ通気扇風機を設置して、風管を坑道詰めまで延長して換気する。

炭坑では容認されないガス対策だが、土木工事の業界では異論なく通用している。
電源設備がない場所でガス濃度を計測する例。計測電源を12Vバッテリーで供給する。
計測データは可搬式PC(ノートパソコンなど)で収集する。

貫通した隧道から掘り込んだ調査坑に、メタンガス湧出が認められた。当該箇所のガス排除と湧出量
測定を、本質安全センサで提案した例。
本質安全とはメタンガスの量が爆発限界を超えても安全な防爆方式。

             防爆の概念の違い(地上産業と炭坑)

地上産業
@危険区域は限られた区域・場所(ほとんど屋内)。
A「防爆システム」の考え方はなく必要最小限の防爆品、例えば 小型電動機、照明器具、小型スイッチ、電話機等の使用で対処 している。(電力用開閉器・遮断器等の火源となる機器は危険区域の外へ設置できる)
B「防爆」は極めて特殊な方案と考えて、防爆電気品製造業者に全て外注する場合が多い。

■炭  鉱
@坑内全域が危険区域で、電気品は全て防爆仕様でかつガス濃度1.5%を超える区域への送電を停止するガスインタロックをかけている。
A「防爆」とは単に「防爆電気品を使用する」ことではなく坑道や通気など坑内諸条件に適合しつつ、可燃性ガスと火源を遮断する「坑内集中監視およびインタロックを設定するシステム」 (略して「坑内集中監視システム」)の一部として扱っている。
B集中監視システムは、運用するためのソフトウェアとセンサ、伝送機、回線、アクチェータ、表示装置等の機器類とで構成するが、重要なのは現場に適した論理と実績に基づくソフトである。
C坑内集中監視システムの設計は日常的に行われているが、炭鉱の保安に必須な条件であるため、上級管理者の稟議で承認されてきた。
Dセンサ類はインタロック要件によって選定し、炭鉱自体で性能 試験を行うほか、国の機関(資源環境研究所)に個別検定を依頼して安全性と適応性を確認していた。監視のみに使用するセンサ類も同等に扱っていた。
E炭鉱と監督官庁は、坑内集中監視・誘導無線を統合して、「連絡 警報装置」と呼び保安の要に位置づけていた。 
 
■可燃性ガスに関して、建設業界の関心は乏しいと感じたインタビュー
旧産炭地へ研究目的の深地下構築物を建造するプロジェクトがあった。地下の工事ではメタンガス湧出も予想されるので建設業界の、炭坑とは異なる安全対策を知りたく、インタビューに訪問したときの私の感想を記す。

@当企業体は、発注先の仕様書を徹底的に討議して、大手電気メーカー2社の安全システムを発注しており安全対策に抜けはないとのことだった。
しかし、それら大手電機メーカー2社は、坑内ガス対策には殆ど経験がない。経験の乏しい企業体とメーカーがいくら討議や精査を重ねてもよい結論が出るのかと疑問に感じた。
さらに、発注先仕様書のガス対策は、炭坑会社系列のエンジニアリング会社が作成した、概念仕様のままであった。詳細仕様がないので、精査の対象として物足りない筈と感じた。
A企業体の現場所長に具体的対策を質問すると、「危険なときは退避します」とのことだが「危険を認識する方法」の言及はなかった。待避方法に関する保安規定、マニュアル類の用意もないので、もし実際に状況が発生した場合の待避は難しいと感じた。・・・・しかしプロジェクトは事故なく建設を完了したと聞いている。 

 工事中にメタンガスが湧出した隧道掘削現場から、ガス排除、ガス監視システムなどの技術支援要請を受けることがあった。なかには湧出量が多くガス監視装置に電源遮断回路を組み込んだシステムを現地へ設置した事例もある。以下に当時現場へ伝えた資料の一部を示す。

危険が潜むメタンガス対策の数例

例−2
@袋坑道天盤の水抜きボーリング孔からメタンガスが湧出した。
Aガス排除のために地表へ通気立孔を通し、地表へ換気扇風機を設置した。
B水平坑道から通気立孔を経由して換気扇風機の電源ケーブルを通した。
C通気立孔にガス警報機センサを取り付けた。
D換気扇風機は常時停止として、ガス警報器が動作した場合のみ運転する。

危険な
理由
@ガス雰囲気中に動力ケーブルを敷設すること。
A通常は自然通気に頼り、換気扇風機を停止していること。

B天盤ボーリング孔付近に高濃度がガスが多量に停滞している事も想定できる。
C停滞ガスが自然通気でガス警報器センサに届くと動作する。
Dガス警報器が動作すると換気扇風機が運転開始、停滞ガスは移動しつつ濃度が下がる。
E爆発濃度となることもある。
Fそのときに、動力ケーブルや扇風機の破損・故障等が発生すると、火源となり爆発が起こる。

危険排除の策

◎換気扇風機は常時運転とする。
◎電源を地表から供給する。

例−1
掘削にともない切羽付近からメタンガスが湧出したため、ガス警報機メーカーとガスインタロックを協議・検討した。

検討の結果は次の通り
@中間の電気座付近にガス警報器のセンサを設置する。
Aガス濃度が設定値を超えたら電気座で切羽行き高圧遮断機を開放する。

危険な
理由
@ガス警報器の動作時、センサより奥部に高濃度ガスの存在も否定出来ない。
Aガス雰囲気中で非防爆型の遮断機を開放する。
Bその場合遮断機が火源となり爆発に至る危険がある。

◎坑外の変電設備で坑内行き電源を全て遮断するのが通常の方案。
◎検討したガスインタロックは実施されなかったと聞く。

念のため
最近の提案

メタンガス検知に使うセンサ

右は爆発限界ガス中でも計測出来る炭坑仕様の本質安全型ガスセンサ。電源、データ伝送回路も本質安全化が必要。

左は1.5%volまで計測できる小型センサ。

A貫通で通気が確保出来る隧道から分岐を掘削するとき。

ある工事々務所で某メーカーが提案したインタロック計画書を見せて貰った。ガス警報器の動作で、掘削中の
隧道内に設置した電気座の切羽行き電源を遮断することになっていた。非防爆の遮断器が動作すると強力な
火元となるので、極めて危険な方策である。安全な坑外の変電所で遮断するのが常道。

耐圧防爆型ガス警告灯

ガス集中監視監視と坑内電源インタロックを設備した現場のガス警告灯とブザー(左)。
センサの計測値が警報設定値を超えたとき、ランプ点灯とブザー鳴動で作業者に知らせる。
さらに計測値が増えて電源遮断設定を超えると、坑口変電所の「坑内送電」を遮断する。(右)

@掘削工事中に切羽・コンクリート覆工部よりとガス湧出があるとき。

■センサ配置などの概念図■

B電源インタロックをかけるとき。

 ■隧道のガス監視システム・・・防爆の基本的な考え方


(1)隧道内の電気機器、運搬機器、掘削機などは非防爆品である。
(2)炭坑々内でも非防爆の機器が使用できる「鉱山保安規則の甲種炭鉱特免区域」に準じた環境と位置づける。
(3)電気機器に対する防爆は、可燃性ガス検知器(以下ガスセンサ)による電源インタロック方式で担保する。
(4)可燃性ガス濃度0.5%(vol)をセンサが検知したときに、インタロック機能で、センサ周辺および風下分流への送電停を止する。
(5)坑外から隧道内への送電系統および隧道内の配電系統はインタロックに対応できること。
(6)ガスセンサが動作しても、電源遮断ができない電池内蔵機器の隧道内設置はしない。

関連写真